梅毒とは
梅毒は、症状が出ない時期と出る時期を繰り返す進行性の性感染症です。
ペニシリンによる治療が行われていない頃は、脳障害などが生じ、命に関わる重篤な疾患だと考えられてきました。
現代では治療法が確立され、治療を正しく行うことで、完治が見込めるようになりました。日本では感染者が確認されていない期間もありましたが、2010年頃から徐々に感染者数が増え、現在では20~50代を中心に感染者が増加しています。
梅毒は、梅毒トレポネーマが皮膚や粘膜の些細な傷から感染することで発症します。特に、アナルセックスでは直腸粘膜に傷ができやすいため、注意が必要です。
また、梅毒による症状が出ている箇所は感染しやすいため、HIVの感染リスクも高まります。
その他、妊娠中の女性が梅毒に感染していると、新生児が先天性梅毒になることもあるため、感染の疑いがある時には医療機関を受診しましょう。
梅毒の症状
梅毒の感染後、下記のような経過をたどり、症状の出現と消失を繰り返しながら進行します。
第1期梅毒(感染から約2~3週間後)
- 性器、口腔、のどなどの感染部位に小豆~指先大の痛みのないしこりができる
- 鼠径部(そけいぶ)のリンパ節に痛みのない腫脹が生じる
第2期梅毒(感染から約3ヶ月後)
扁平(へんぺい)コンジローマ |
陰部や肛門周囲の皮膚に、薄い灰色あるいはピンク色の平らなイボができる。 |
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バラ疹 |
顔や手足、体幹部にかけて、赤い湿疹が現れる。 |
梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん) |
顔から手足、また、手のひらや足の裏に赤茶色の膨らんだ湿疹が現れる。 |
丘疹性梅毒疹(きゅうしんせいばいどくしん) |
顔や手足、体幹部にかけて、赤みや湿疹が生じる。 |
梅毒性アンギーナ |
のどに赤みや腫れが生じる。 |
梅毒性脱毛 |
頭皮や後頭部の髪がまだらに抜ける他、全身で脱毛が見られる場合もある。 |
※上記の症状は、およそ数ヶ月~3年間
出現した後に、見られなくなります。
第3期梅毒(感染から3年以上経過)
- 皮膚、筋肉、骨などの他、肝臓や腎臓などの内臓にゴムのような腫瘍や硬いしこりができる
※鼻骨周囲に生じたゴム腫を
鞍鼻(あんび)と言います。
現在、第2期までに治療を行う患者様が増えたので、第3期まで悪化する方は滅多にいません。
第4期梅毒(末期症状)
- 関節炎が生じる
- 手足の感覚がなくなる
- 心臓、血管、脳、目に深刻な障害が出て、死亡する
現在では、第4期の末期症状まで悪化する方は見られなくなりました。
梅毒の検査
感染の有無を調べるために採血を行います。
結果は即日検査の場合、15~30分程度で分かります。
感染が確認された時には、精密検査を実施し、
抗生物質による治療を開始します。
検査を受ける方へ
- 生理中や妊娠中の場合は、腟ぬぐい検査を行えません。生理中の方は、生理が終わってから検査をお受けください。
妊婦の方は、かかりつけの婦人科にご相談ください。
なお、生理中や妊娠中でも、採血や咽頭検査による検査は実施できます。 - 抗生剤治療を行っている方は、検査結果に影響を及ぼす場合があるため、服薬期間が終わってから2週間以上空けて検査を受けることをお勧めします。
梅毒の治療
抗生剤の内服
梅毒治療に用いる抗生物質は3種類あり、有効性が低い時には薬を変える場合があります。
治療を受けず放置すると病状が進行し、後遺症の出現や治療期間の長期化などの恐れが考えられますので、初期のうちに治療を始めましょう。
最近では口腔性交を行う方が増えたことにより、口内や咽頭に感染した女性が多く見られるようになりました。また、咽頭に感染が起きる淋病やクラミジアも増えてきています。梅毒の咽頭感染では、のどに生じる乳白の斑点、違和感、痛みなどの症状が生じます。
梅毒に感染するとHIV感染のリスクも上昇するため、日本性感染症学会が公表した「性感染症診断・治療ガイドライン」によると、梅毒検査時にHIV検査も同時に実施するよう推奨されています。
梅毒の予防
効果的な対策はコンドームの着用ですが、
口腔や咽頭などからも感染する恐れがあり、
リスクを無くすことはできません。
梅毒に感染した可能性がある時は、
放置せずに検査を行いましょう。
また、パートナーの感染が分かった場合は、
たとえ自覚症状がなくても、
早期に検査を受けることをお勧めします。
2024年に20代の間で梅毒患者が急増している?
厚生労働省が公表している過去12年間の統計データを振り返ると、2014年の梅毒患者数は男女合わせて約2,000人でしたが、2022年には約10,000人と倍増し、2024年にはさらに増加しています。
男性は20代~50代、女性は20代の間で急増しており、その背景にはいくつかの要因が関与しています。
※厚生労働省の梅毒報告数の推移より作成
SNSや出会い系アプリの普及
SNSや出会い系アプリの利用が増加し、見知らぬ人との接触機会が増えたことが、感染リスクの上昇に繋がっています。
特に20代はこれらのアプリを頻繁に利用する世代であり、複数のパートナーとの関係が増えることで感染リスクが高まっています。
性感染症に対する認識不足
学校での性教育が十分でないことや、性感染症に対する情報の不足が、予防意識の低下を招いています。
20代の若者は無防備な性交渉を行うことが多く、結果として感染が広がっています。
国際的な移動の増加
グローバル化に伴い、海外との往来が増えたことも梅毒の流行に影響を与えています。
留学や旅行などで海外に行く若者が増え、その際に感染するケースが増加しています。
検査体制の確立による早期発見
近年、性感染症の検査体制が強化され、早期発見が進んだ結果、報告数が増加しています。
特に若年層に対する検査の普及が、感染者数の増加として統計に表れています。
これらの要因が複合的に作用し、20代の梅毒患者が急増しています。
正しい性教育の普及、定期的な検査の受診、適切な予防対策の実施が、感染拡大を防ぐために不可欠です。
若者自身が性感染症に対する正しい知識を持ち、自身の健康を守る意識を高めることが重要です。