HIV(エイズ)とは
HIV(エイズ)とは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することで、様々な病気にかかりやすくなる「後天性免疫不全症候群」のことを指します。
HIVは、がん細胞や侵入した異物から守る免疫細胞を攻撃するため、治療を行っていないHIV感染者の免疫細胞数が徐々に減少します。
そのため、身体の免疫機能が低下して、皮膚がんや悪性リンパ腫の発病、健康な方では発症しない感染症が起こりやすくなります。全世界でHIV感染者はおよそ7,000万人いると言われており、そのうち3,500万人が命を落としています。
HIVの感染ルート
性交渉の際、感染者の腟分泌液や精液からの感染、
血液感染、感染した母親の母乳などによる
母子感染があります。
HIV感染の主な原因は性交渉です
HIV感染の主な原因は性交渉によるもので、感染者の血液、腟分泌液や精液中のウイルスが相手の性器、口、肛門の粘膜や傷口から侵入するため感染します。
注射器具を使いまわすことでも
感染リスクは高まります
日本では、献血された血液は厳しい検査による管理がなされ、安全性が担保されています。
母親がHIVに感染している場合、子どもに感染する恐れがあります
母親がHIVに感染している場合、母乳内のHIVによって授乳を通じて子どもに感染する恐れもあります。
他の性感染症に比べ、HIVの感染力は高いとは言えず、性交渉での感染率は1%未満程度、口腔性交では0.1%未満程度と考えられています。
ただし、コンドーム未着用の性交渉時に感染した場合もあります。
また、梅毒、淋病やクラミジア、尖圭コンジローマなど他の性感染症に感染している方では、HIV感染の可能性が10倍以上に高まり、検査を受けて同時感染が判明するケースが多く見られます。
風俗業界では性交渉の相手が不特定多数となるため、多数のHIV感染者が存在します。他にも、デリバリーヘルスにおけるアナルセックス、ソープランド内でのコンドーム未着用の性交渉、出会い系アプリを通じて様々な相手と性交渉を行った男性がHIV感染して、パートナーとの性交渉で感染が拡大する場合も考えられます。
以前は、日本における大半のHIV感染者はアナルセックスを行う同性愛の男性でしたが、近年では風俗業界や一般の女性にも感染が広がっています。
HIV感染の経過
HIV感染が確認されても、エイズの発症が
すぐに起こるわけではありません。
HIVに感染した後の経過は、特徴的な症状から3期に分類できます。
急性期
感染後2~4週間でウイルスの急激な増加が起こり、免疫細胞の一種であるCD4陽性リンパ球が破壊されます。
急性期に見られる症状は、風邪やインフルエンザとよく似た、のどの痛みや発熱、関節痛、筋肉痛、リンパ節腫脹などです。他に、倦怠感、下痢、体重減少などが生じる場合がありますが、多くは数日〜数週間で解消されます。
そのため、症状が出ても疲労や風邪によるものと勘違いされてしまいますが、感染初期の症状が見られ、しかも感染リスクが高い場合は、HIV検査の実施が推奨されます。
なお、HIV感染後に症状が見られないケースも多いため、感染機会に心当たりがある方は、自覚症状がなくても検査による確認が欠かせません。
無症候性キャリア期
HIV感染後、急性期を経て、症状がほとんど見られない無症候期が何年間か続きます。
無症候期は数年〜10年程度と言われていますが、15年以上も無症状の場合や、約2年でエイズを発症する場合もあり、人によって大きく異なります。
この期間は目立った症状が現れないため、HIV検査でしか感染が分かりません。
ただし、症状が出ていなくても、身体内でHIVの増殖は続き、免疫にかかわるCD4陽性リンパ球の減少は進行しています。
そして、免疫機能が基準以下になると、長期にわたる下痢、寝汗、心当たりのない急な体重減少などの症状が出現するようになります。さらに口腔カンジダ症や帯状疱疹などの感染症を起こしやすくなります。
エイズ期
治療を行わないままHIV感染が進行すると、通常の健康状態ではかからない病原体への感染が起きる「日和見感染症」の他、悪性腫瘍や神経障害などの疾患が出現しやすくなります。
厚生労働省によるエイズ診断基準には、23の疾患が指定されており、1つでも発病するとエイズと見なされます。
エイズの診断を受けて治療を行わない場合の生存期間は1年~3年と考えられています。
HIV検査について
血液検査により、以下の手順で検査を行います。
- スクリーニング検査
- 確認検査
上記の2回に分けて行う検査は、正確なHIV検査のために欠かせない手順です。
ウエスタン・ブロット法
感染の疑いがある日から14日以上が過ぎれば、検査を受けることができます。
検査結果で陽性と判定された患者様は、HIV治療を専門に行う医療機関をご紹介します。通常、感染に繋がるような行為からHIV陽性が判明するまで1~3ヶ月かかると言われています。
そのため、仮に検査で陰性と診断されても、感染していないことを確実にするためには、感染に繋がるような行為から3ヶ月以上過ぎてから再検査を行う必要があります。
検査を受ける方へ
- 抗生剤による治療を行っている時に検査を受けると、結果に影響を与える可能性があります。内服期間が終わって2週間以上空けてから、検査を受けることが推奨されます。
- 生理期間中や妊娠中は、腟ぬぐい検査を行えません。生理中の場合は、生理期間が終わってから検査をお受けください。妊娠中の場合は、婦人科で相談されることをお勧めします。なお、血液検査や咽頭検査は生理中・妊娠中でも可能です。
HIVの治療
抗HIV薬の内服
現時点では、HIVを完全に消失させる治療法はありません。
ウイルス増殖を抑えることを目的として、抗HIV薬の多剤併用治療を行います。
治療の効果を上げるためにも、感染が考えられる早い時期に開始することが大切です。したがって、感染の恐れがある方だけでなく、多くの方が検査を受けることが望まれます。
HIV感染症の予後
近年、HIV治療薬の開発により、生存率の向上に寄与するウイルス増殖抑制効果の高い薬も使えるようになりました。
その一方で、HIV感染状態の長期化や抗HIV薬による心臓病、骨粗鬆症、腎不全などの副作用で生じる慢性合併症が問題視されるようになりました。
現在のHIVの位置付けは、死の病から適正な医療によりコントロールできる慢性疾患へと変化しています。
エイズ発症を予防するためには、無自覚、無症状の時点でHIV感染を発見することが欠かせません。
したがって、HIV感染症における検査の役割はますます重要になってきています。