更年期は閉経を迎える時期の前後5年ずつの10年間と定義されています。閉経の時期は人によって大きく異なりますが、日本人の平均的な更年期は45~55歳ということになります。
更年期には身体的、精神的に様々な不快な症状があらわれますが、とくに日常生活に影響が出るほどの症状がある場合を更年期障害と言います。
更年期障害が起こるしくみ
加齢によって卵巣機能が衰えると、閉経の5年ほど前から女性ホルモンのうち卵胞ホルモン(エストロゲン)が激しく変動しながら急激に分泌が減少し、やがて閉経を迎えます。すると卵巣からのエストロゲンの分泌がなくなり、閉経後5年ほどかけてゆっくりとその状態に慣れていきます。この時、急激なホルモンバランスの変化によって様々な更年期症状があらわれます。
更年期症状は重い、軽いなどの差はあれ誰でもが感じるものです。その中でも日常生活に支障をきたすほど、強い症状が出る場合は更年期障害となります。
症状の多くは、エストロゲンの分泌が低下すると、身体がさらにエストロゲンを欲し、脳から卵巣へとエストロゲンの増産指令が送られます。しかし、卵巣の老化によりその指令がうまく処理されないことや、指令によって脳が興奮状態になり、自律神経に乱れることで起こると考えられています。
更年期障害の発現因子
日常生活に影響が出るほどの更年期障害は、上記のようなエストロゲンの急激な減少、加齢による身体機能の低下などの身体的要素の他にも、患者様ご本人の性格、仕事、家庭環境といった環境的・社会的要素が関係していると考えられています。
そのため、更年期障害はストレス性疾患の一種に分類する考え方もあります。身体的要素は診察である程度はっきりできますが、ご本人の社会的背景やストレス要因などは人によって大きく異なります。ご自身で気になる要素をまとめておき、受診の際に医師に詳しく話していただくと治療方針を立てるためにも大変参考になります。
代表的な更年期障害の症状
更年期症状は、他の婦人科や内臓の器質的な病気、甲状腺など内分泌器官の病気などとも共通する部分があります。
そのため、更年期症状が辛い場合には、お早めに婦人科や内科などを受診することをおすすめします。
症状にお困りの際はいつでもご相談ください。
精神神経系の症状
- 頭痛
- めまい
- 不眠
- 不安感
- イライラ感
- うつ
血管運動神経系の症状
- ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)
- 動悸・息切れ
- 寝汗・発汗
- むくみ
皮膚・分泌系の症状
- のどの渇き
- ドライアイ
- 消化器系の症状
- 吐き気
- 下痢・便秘
- 胃もたれ・胸やけ
運動器官系の症状
- 肩こり・腰痛・背中の痛み
- 関節痛
- しびれ
- 手指の痛み・しびれ・変形
泌尿器・生殖器系の症状
- 月経異常
- 尿失禁
- 性交痛
更年期障害の治療
ホルモン補充療法(HRT)
分泌が減少し、不足したエストロゲン(卵胞ホルモン)を外部から補充することで、不快な症状を和らげることができます。これがホルモン補充療法で、更年期障害の治療として基本的なものです。
ただし、エストロゲンのみを投与すると子宮内膜が肥厚し、子宮体がんを発症しやすくなる傾向がありますので、子宮を切除していない方の場合プロゲステロン(黄体ホルモン)を加えて投与します。
HRTが効く症状
- のぼせやほてり、発汗といったホットフラッシュ(血管運動神経症状)の強い方
- 動悸、知覚異常、睡眠障害など自律神経系の症状が強い方
- 閉経後の骨粗しょう症を予防したい、改善したい方
- 泌尿器系や生殖器系の粘膜の潤いが失われて起こる萎縮性腟炎、性交痛といった症状を改善したい方
その他の効果としては
- LDLコレステロールが減少、HDLコレステロールが増加する効果で脂質異常症を改善
- 自律神経が整い不眠症状を改善
- コラーゲンの増加による美肌効果
ホルモン補充療法(HRT)は更年期障害が起こるメカニズムを根本から抑えて行こうとする治療法です。これに対し、各々の症状に対しては、漢方薬や抗うつ薬、抗不安薬といった精神神経症状に対するお薬を処方して、対症的に辛い症状を和らげる治療も同時に行います。
更年期症状は人それぞれです。どのような症状が起こっていて、何が辛いのか、しっかりと担当医と話し合っておくことで患者様に合わせた、最適の治療方針を立てることが可能になります。
漢方薬による治療
漢方は、病気の素と闘うのではなく、患者様それぞれの体質に合わせながら、体質を改善して病気や辛い症状に打ち勝つ力を与えるもので、HRTが適用しない場合や症状が多岐に渡る場合での第1選択となります。
抗うつ薬・抗不安薬などによる治療
抑うつ、不安、イライラといった精神神経症状が強い場合や、HRTを行っても症状が改善されない場合などで、抗うつ薬や抗不安薬などを限られた期間で使用することがあります。
こうしたタイプの患者様の場合、周りの方によく話を聞いてもらうことで、心に詰まっているストレスが発散され症状が改善することがあります。また、なかなか話す相手が居ない場合は、専門のカウンセラーによるカウンセリングを受けるのも解決法の1つになります。
更年期付近から注意したい病気
生活習慣病のリスクが上昇
女性ホルモンのうち、エストロゲンには血管の柔軟性を保つ働きがあると考えられています。
また内蔵脂肪の分解を助ける働きもあるため、更年期にエストロゲンの分泌が減少していくことによって、高血圧、脂質異常症(高脂質状態)、糖尿病の発症リスクやそれによる動脈硬化のリスクが高くなってしまうことが知られています。
動脈硬化が進むことで、脳へ至る動脈や心臓へ至る冠動脈、下肢を司る動脈などが詰まってしまうと、脳血管障害や狭心症といった重篤な病気へと繋がる危険因子となります。更年期の女性は特に注意が必要になります。
自覚症状がない骨に関する病気
エストロゲンは破骨細胞の増殖を抑制する働きがあり、骨の新陳代謝を正常に保っています。
しかし、更年期はエストロゲンが急激に減少することで、このバランスが崩れ、破骨細胞が働き過ぎるため、閉経後は1年に2%も骨密度が減ると言われています。そのため、徐々に骨がスカスカになる骨粗しょう症のリスクが高くなります。
できるだけカルシウムを多く摂取するなど、生活に注意を払った上で定期的に骨密度の検査も受けるようにしましょう。