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便秘

便秘

排便のリズムは人によって異なります。そのため、毎日便が出ないからといって便秘とは限りませんが、一般的には3日程度排便が無いか、排便があっても満足感を得ることができないのが便秘と定義されています。
便が長く体内に滞留することで、大腸や肛門ばかりではなく、全身の健康に問題を起こし、身体面でも精神面でも日常生活への影響は大きなものがあります。
便秘は老若男女を問わず一般的な問題ですが、特に女性に多く見られる傾向があり、その理由として女性特有の問題もあります。
便秘のタイプは様々ありますが、ご自身の便秘の原因を知り、日常生活の改善を行うとともに、市販の薬に頼らず、医師に相談し適切な治療を受けることも大切です。

便秘の種類

機能性便秘

腸の運動機能や、知覚機能などに障害を生じて、腸の蠕動運動の動きが低下したり、痙攣を起こしたり、便意を覚えにくくなるなどが原因の便秘です。機能低下の要因としては生活習慣、ストレス、加齢などが考えられます。

器質性便秘

腸管に炎症が起こる、腫瘍ができるなど器質的な病気が生じていることが原因の便秘です。潰瘍性大腸炎やクローン病のような炎症性腸疾患、大きくなった大腸ポリープや大腸がんなどで腸管が狭窄するなど、便の通りが悪くなって便秘となります。また女性の場合、子宮筋腫などもできる場所によっては大腸を圧迫し便秘の原因となることもあります。

女性に便秘が多い理由

便秘の原因の多くは食生活を含む生活習慣からくるものですが、身体の構造の問題や体質の問題も関係しており、女性に便秘が多い原因も男女の身体の構造差や体質の差に由来するようです。

腸の長さ

大腸は、平均的には1.5mほどの長さがあると言われている長い臓器です。ただ人によってはこの平均より長くなることもあります。平均より大腸が長いと便の通過に時間がかかることや、腸内細菌叢のバランスが崩れやすいことなどから便秘をはじめとする腸の不快な症状を抱えやすいと言われています。
また、大腸が柔らかくしなやかであると、他の骨盤臓器(子宮・直腸・肛門)などの影響を受けやすく、腸が長く伸びることや排便障害を起こすことがあります。
特に女性は子宮や卵巣が骨盤臓器として存在するため、腸が長くしなやかになりがちなため便秘が多くなると考えられています。

女性ホルモンの影響

女性に便秘が多い理由の1つとしてプロゲステロン(黄体ホルモン)の存在があります。プロゲステロンには身体の中の水分・塩分などを蓄積する働きがあり、プロゲステロンの過剰な分泌によって大腸で便から水分が吸収されすぎることで、便が硬くなって通りが悪くなり便秘が起こります。
そのためプロゲステロンが増加してくる排卵から月経前までの時期に便秘を起こすことが多くなります。

妊娠や出産

妊娠中にもプロゲステロンの産生が増えるため、前述の理由で便秘にかかりやすくなります。また出産時に骨盤底筋群に負荷がかかり、傷ついたり筋力が衰えたりすること、授乳のために水分が使われ水分不足になりやすいこと、自律神経のバランスが崩れやすいことなどから、出産後もしばらくの間は便秘になりやすい状態が続きます。
その他にも出産後の6~8週間の間は内臓の働きが鈍くなりやすく、そのことでも便秘を起こしやすくなります。
ただでさえ出産で体力を消耗していますので、しばらくは育児をしながらになりますが、食事やリラクゼーションなどで身体を療養してください。

筋肉不足(腹圧の弱さ)

長い大腸の結腸部分を通って水分を吸収された便は、いったん結腸の出口近くにあるS状結腸に溜められたのち直腸に送られ、一定量が溜まると直腸は肛門へ向けて絞り出すように運動し、排便します。この時、腹筋など腹腔をとりまく筋肉群の筋力もある程度必要になります。
女性は一般的に男性より筋力が弱いため、排便のための筋力が不足して蠕動運動(ぜんどううんどう)が弱めになる傾向があり、排便しづらい点と、総体的に筋力が弱くなると骨盤内臓を支えることができなくなり、子宮や大腸そのものなどが下がってくる内臓下垂が起こりやすく、その圧迫により蠕動運動が低下して便秘を起こしやすくなります。なお、蠕動運動とは消化管が消化物を肛門方向へと送ろうとして収縮を繰り返す運動のことです。

ダイエット

S状結腸にある程度便が溜まっていると、食事を摂ることで便が直腸に送られ、便が一定以上溜まって直腸が膨らむと、便意が起こり排便しようとします。ダイエットで食事量が少ない場合、この条件のうち便量の増加程度が少なく、便意が起こりにくくなることで便秘になります。また、食事量の減少は食物繊維の減少にも繋がり、便量が低下することで、さらに便秘がおこる条件が整います。
食事を絞った無理なダイエットは、便秘の元となるばかりでなく、栄養バランスの乱れや腸内細菌叢の乱れを招き、身体全体への悪影響もあります。

便意を我慢する

仕事や学業などの関係で、便意があっても我慢するということを続けていると、だんだん便意を感じる力が弱くなってきてしまい、便秘の原因となります。
特に女性は、仕事中などに便意があっても我慢してしまう傾向があり、それが癖になって便秘になったり、悪化させてしまったりすることが多くなっています。
また、恥ずかしいからと、自宅でないと排便できないタイプの方も同様な傾向があります。恥ずかしがらずに、便意を感じた時はトイレに行くようにしましょう。

便秘がもたらす体への影響

便秘がもたらす体への影響

便秘によって、体内に長く大量の便が留まることで、排便障害だけでは無く、全身に様々な不調があらわれることがあります。

便秘になると腸内で便の水分が吸収されすぎるため、便は硬くなります。硬い便は排便時に肛門を傷つけてしまいやすく、そこから痔を発症することがあります。痔になると排便時の痛みやいきみによる出血が起こるため、しっかりと排便することができにくくなります。
それにより便意を我慢することが癖になり、さらに便秘が悪化するという繰り返しになります。

肌荒れ・吹き出物

便秘で便が体内に長く滞留することで、便が硬くなるだけではなく、腸内細菌叢による余分な発酵や腐敗が進みます。それによりガスが通常より多く発生します。その上、腸内細菌叢の中の悪玉菌によって腐敗が進むと身体にとって毒になる有害物質も発生してしまいます。
ところが便が出口に詰まっているため、ガスの排出がうまくいかずお腹が張るなどの不快な症状があらわれ、また発生したガスは大腸から吸収され、最終的には皮膚から排出されることになり、皮膚の負担が増えて新陳代謝が乱れることで肌荒れや吹き出物といった皮膚症状もあらわれることになります。

精神的な不調

便秘によって、お腹の張り、不快感による食欲低下など多様な身体症状があらわれ、その体調不良によって、イライラや抑うつといった精神的症状が誘発されてしまうこともあります。

その他の病気

慢性的な便秘があっても、適切な治療や対策をとらずに放置してしまうと、度重なるいきみによって大腸周辺の血行に影響がおよび、虚血性腸炎から激しい腹痛、下血といった症状があらわれることがあります。
また、便が硬く排便頻度が低いほど中高年では認知機能低下のリスクが高まることもわかってきています。

便秘を放置することのリスク

便秘の不快な症状は気になるけれど、“便のことを人に相談するのは恥ずかしい”、“いつか出るものは出る”などとあきらめてしまっている方も多いように見受けます。
しかし、適切な対処をせずに放置すると、便秘の話だけでは無くなってしまい、全身の健康状態に影響することもあります。

腸内で腐敗菌が増加する

便秘によって腸内に便が長時間滞留し、腸内細菌叢の働きで発酵や腐敗が進みます。特に悪玉菌と呼ばれる腐敗菌の働きで、毒性のあるガスが発生すると、便やおならのにおいがきつくなります。そればかりではなく、ガスは腸壁から吸収されて、その毒性は、口臭、肌荒れ、吹き出ものなどの皮膚症状や高血圧、不眠など様々な悪影響があらわれます。
つまり、便秘は健康だけではなく、美容にも悪影響があることになります。
悪玉菌は動物性たんぱくを材料にして腐敗臭のある毒性のガスを産生します。そのため普段から肉類を多く食べる人は特に注意が必要です。

便秘による合併症

ここまで述べてきたように、便秘は単なる排便障害だけではなく、そこから誘発される病気も多いことがお分かりいただけたかと思います。
特に多い合併症としては、いきみを繰り返すことによって肛門を守る静脈叢が傷ついて起こるいぼ痔(痔核)、硬く太い便で肛門が裂けて起こる切れ痔(裂肛)、いきみなどで不要な腹圧がかかることで起こる脱腸(直腸脱)といった肛門周辺の病気が挙げられます。
また、直腸やS状結腸に腐敗物質が滞留することで、大腸ポリープや大腸がんなど腸の器質的障害のリスクが大きく高まることもわかっています。
便秘があるからといって必ずこれらの合併症があらわれるわけではありませんが、これらのリスクを避けるためにはお早めに適切な治療を受けることが大切です。

便秘の対処法

便秘は食事内容や食習慣の改善、トイレ習慣の改善で悪化を防いだり、軽減したりすることができます。ここではその対処法についてまとめます。

食物繊維を摂る

食物繊維は小腸で消化されず、大腸まで到達し、腸の働きを活発化するだけではなく、便の量を増やして正常に排泄する役割を果たしています。またそれに加えて、余分な糖や脂肪、塩分などを吸着して体外に排泄する働きもします。成人女性では1日18g以上を摂取することが推奨されています(成人男性の場合21g以上です)。

規則正しい食生活

規則正しく3食を摂ることで、消化吸収から排便までのその人なりのサイクルができあがります。特に朝食をしっかりと食べることは腸の活動を正しくするために大切です。

水分を摂る

就寝中には多くの水分が汗などで失われています。朝起きたらコップ1杯の水を飲むだけでも失った水分を補給し、腸の活動も活性化し便意を催しやすくなります。

適度な油分を摂る

脂肪分は細胞のエネルギーとなるばかりではなく、腸内の潤滑剤としても働き、便の移動をスムーズにします。便秘気味の方は適切な量の油を摂ることで症状を軽快できます。

適度な運動

適度な運動であれば腸の動きを活性化し、便秘の解消や予防に役立ちます。また、大腸は小腸との繋ぎ目から「の」の字のように直腸までお腹をグルっと回っていますのでそれに沿うようにお腹をマッサージすることも有効です。

トイレの時間を確保する

まずは便意を感じたら我慢せずトイレに行く習慣をつけましょう。しかしトイレに行っても出ないからといって長時間トイレに籠もるのはかえって逆効果です。トイレ時間は1回5分ほどと決めるのが良いでしょう。

前かがみの姿勢で排便する

洋式トイレは足腰への負担は低いのですが、自然に座った姿勢では直腸と肛門に角度がついて排便しにくくなります。洋式トイレの場合は意識して前屈みになるような姿勢をとりましょう。少し、かかとを上げるのもおすすめです。

特に「妊娠中」の腸内環境は大切

腸内環境を整えることは人にとって大切なことですが、特に女性の場合はここまで説明したように体格的問題や身体の構造的問題で腸内環境が乱れやすい傾向があります。
特に女性には妊娠・出産というライフステージがあり、その際にご自身の腸内環境を整えておくことの大切さが近年の研究で判明してきています。
従来、胎児の腸内は無菌状態であると思われていましたが、近年の研究で胎児の腸内環境、特に腸内細菌叢の36~40%は母親の腸内細菌叢から受けつがれていることがわかってきました。つまり、良好な腸内細菌叢を築いてそれを胎内の赤ちゃんへ引き継ぐことは、母親から子への「最初の贈り物」とも言えることなのです。
母親が良い腸内環境をもち、気持の良い排便習慣があると、子の知育・生育に大きく良い影響を与えることがわかってきています。
しかし、妊娠中にしっかりとした自意識をもって自身の体調・メンタリティをコントロールしていくことは、なかなか大変なことでもあります。ご自身の努力だけで、そうした作業をしていくのは本当に難しいことだと思います。
当院では、それぞれにあわせた指導も行っておりますので、お悩みのある方はいつでもお気軽にご相談ください。